ブログ一覧
AI活用

Excel の「.Rules」が良い — 人にスキルを持たせるのではなく、ファイルにルールを埋め込む

本記事は公開時点(2026年08月08日)の情報です。AI関連のサービスや仕様は変化が速いため、最新の情報は各公式サイトをご確認ください。

「このファイル、触ると壊れるので◯◯さん以外は編集しないでください」。どこの会社にも一つはある、そういう Excel の話です。

Copilot in Excel に ワークブックルール という機能が入りました。ブックの中に .Rules という名前のシートを作ってルールを書いておくと、そのブックを誰が開いても、Copilot がそのルールに従って編集するようになります。最初は地味な機能に見えたのですが、使ってみるとこれが抜群に便利で、しかも設計思想がとても正しい。

Skills は人に付く。Rules はファイルに付く

Copilot にはすでに「スキル」の仕組みがあります。よく使う手順や自分の流儀を覚えさせておく、いわば人に付くカスタマイズです。

ただ、Excel の現場を思い出してほしいのですが、あのファイル群は個人の道具というより業務そのものです。請求書テンプレート、原価計算表、シフト表。担当者が変わってもファイルは残り続けるし、ファイルの「作法」——この列は触らない、日付はこの形式、集計行はこの色——は人ではなく業務に紐づいています。

つまり Excel では、人がスキルを持つより、ファイルがルールを持つほうが構造に合っている.Rules はまさにそれで、ルールがブックの中に住んでいて、ファイルを共有すればルールも一緒に付いていきます。受け取った側のセットアップは不要です。

仕組みは拍子抜けするほど Excel 的

仕様が面白くて、ルールの実体は特別な設定画面ではなくただのシートです。

  • シート名を .Rules にする(Copilot ペインの「Create workbook rules」からテンプレート付きで生成もできます)
  • ルールは A列に1セル1ルールで書く
  • ##NUMBERS ##CHARTS のような見出しでグループ化できる
  • 説明を長く書くより、短い実例を置くほうが効く

そして一番 Excel らしいのがこれです。ルールを数式で書ける

=IF(B1="Executive","Show KPI summary only","Include full drill-down tables")

閲覧者の区分やデータの状態に応じて、Copilot への指示そのものが動的に変わる。「セルに数式を書けば挙動が変わる」という Excel の文法のまま、AI のガードレールを実装できるわけです。

開発者には見覚えのある光景

私たちの業界では、リポジトリに CLAUDE.md や AGENTS.md を置いて「このプロジェクトではこういう規約で書いて」と AI に伝えるやり方がすっかり定着しました。.Rules はその Excel 版です。

コードの規約がリポジトリに付くように、帳票の規約がブックに付く。「AI への指示を、人ではなく作業対象に埋め込む」というパターンは、どうやら道具を問わず正解のようです。属人化した Excel の「作法」を .Rules に書き出す作業は、それ自体が業務の暗黙知をドキュメント化する行為でもあって、引き継ぎ資料として読んでも成立します。

注意点もある

導入前に知っておいたほうがいいことを挙げておきます。

  • ルールのフルサポートは現状英語のみです。日本語でも動きはしますが、一貫した動作は保証されていません。うちで試した範囲では、重要なルールは英語で書き、補足として日本語を併記するのが無難でした
  • .Rules シートは表示状態である必要があります。見た目が気になるからと非表示にすると、Copilot がルールを読まなくなります
  • 効くのはあくまで Copilot 経由の編集です。人が手で入力する分には何の強制力もないので、従来のシート保護や入力規則の代替ではなく、併用するものと考えるべきです
  • モデルの更新によって挙動が変わりうる、と公式が明言しています。基幹業務のクリティカルな制約を Rules だけに頼るのはまだ早い

「業務の作法」をファイルに書く時代

Excel の属人化は、ツールの問題というより「作法が人の頭の中にしかない」問題でした。.Rules はその作法の置き場所をファイル自身に用意した、という点で、単なる AI 機能以上の意味があると思っています。

弊社では Excel 依存業務のシステム化のご相談をよく受けますが、いきなり脱 Excel をしなくても、.Rules で作法を明文化するだけで引き継ぎと事故がだいぶ変わるはずです。「うちのあの Excel、どうにかしたい」という段階からで構いませんので、気軽にお問い合わせください。